彼女は実は男で溺愛で

「市村さん」

「え?」

 思わぬ方向から呼ばれ振り向くと、噂をしていた染谷さんが歩み寄ってきていた。

「おう。染谷。久しぶり」

「ああ、佐竹」

 染谷さんは表情を緩め、佐竹さんの隣に立った。

「ちょうどお前の噂話していたとこ」

「噂話って。やめろよ。佐竹が話すと碌でもないだろ」

 砕けて話す染谷さんは、年相応の青年だ。
 年相応……あれ。いくつだっけ。

「市村さんに、頼みたい仕事があるから」

「あ、なるほど。じゃまた飲みに行こうな」

「ああ」

 ハイタッチをする2人を、惚けた顔で見つめる。
 なんだか、いいなあ。
 男同士の友情って感じ。

 ……ん? 待って。

 悠里さんの好きな人が、佐竹さんってこともあり得たりしないかな。

 佐竹さんがエレベーターに乗るのを見送って、仕事を頼みたいと言う染谷さんの後に続く。

 けれど、途中で思い出して足を止めた。

「私、議事録を作成しなくてはならなくて」

「ああ、そうだったね」
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