彼女は実は男で溺愛で

 店を出ると、彼は手を差し出した。
 その手に、おずおずと手を重ねる。

 手を繋いで歩くだけで、体中が心臓になったみたいに騒がしい。

「この後うちに、来ない?」

「え」

「ハハ。本音が出てしまったな」

 空いている手で頭をかく彼に、私は消えそうな声で答える。

「行きたい、です」

 突然彼は立ち止まり、私は躓きそうになる体を支えられ彼の腕の中に収まった。

「やっぱり、キス、し足りない?」

「え」

「男だって、思ってくれている?」

 彼の熱い指先が私の頬を撫で、彼を見つめる。

「キス、たくさんするから覚悟して」

 困ってしまうような宣言をされ「あ、あの、染谷さん?」と上擦った声を上げる。

 彼は私の訴えに答えず、私の手を引いて歩き出した。
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