彼女は実は男で溺愛で

「女性社員いちばんの重要事項は、綺麗であること」

 んん?
 なんだか、様子がおかしい。

 けれど、おかしいと思っているのは私だけなのか、周りの新入社員たちは、目を輝かせて話を聞いている。

「常に可憐でかわいらしく、女性らしさを忘れてはいけません」

 会社の顔とも呼べる部署に配属されるかもしれないから、かな。

 どうにか頭の中で辻褄を合わせようとしているのに、目の前のオジサマはどうしても変な発言を繰り返す。

「あなたたちは、西園グループの花嫁候補なのですから」

「はいっ!」

 声を揃えたような、周囲の歯切れのいい返事を耳にして、私にだけ幻聴が聞こえているのかと疑った。

 花嫁候補って、あの、花嫁、ですよね?

「それでは解散になります。配属先は配られる資料を参考にされてください」

 会議室の出口で、各々に配られる資料を順に受け取り、会議室を後にする。

 厳しい新人研修があるものとばかり思っていた私は、肩透かしにあったような気分だった。

 だいたい、話し出した上司の人にしてみても、仕事に取り組む姿勢や、企業理念みたいなものが聞けるとばかり思っていた。
 いや、聞くには聞けたのか、仕事に取り組む姿勢は『綺麗であれ』だ。
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