彼女は実は男で溺愛で

「あの」

 染谷さんは声をかけても、振り向いてくれない。

「手、痛いです」

 ハッと我に返ったような彼は、歩みを止め「ごめん」と、小さく言ってうなだれた。

「はあ。今から佐竹と会うと思うと、気が重いよ」

「どうしてですか」

「俺の方が傷心だから」

「秘密をバラされて?」

 彼は恨めしげに私を見つめた。

「史ちゃん、なんだか楽しそうだね。弱みを握った感じ?」

「いいえ。私、自分が思っていたよりも、ずっとヤキモチ焼きみたいで」

「そう」

 真剣に取り合わない彼に、続けて告げる。

「私、染谷さんが誰のものにもなっていないって知って、すごく嬉しいんです」

「は」

 すごく驚いているような顔をして、彼は乾いた笑いをこぼす。
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