彼女は実は男で溺愛で

「こんな歳になっても経験ないって、気持ち悪くない? 女の子なら純粋だって喜ばれるだろうけれど」

「男の人は遊んでいた方が、格好いいんですか?」

「いや、その」

 口籠る彼を、ジッと見つめる。

「そんな目で、見ないでくれないか」

 私の視線から逃れるように、彼は顔を背ける。

「私も、ですから。初心者同士ですね」

 ふふっと笑うと、彼はズズズッと壁に背中を預け、その場に座り込んだ。

「スーツ、汚れてしまいますよ」

「いいよ。そんなの」

「でも」

「俺、史ちゃんを好きでよかった」

 ボソッと呟いた染谷さんは私を見上げ、頬を緩ませた。

「今は違う理由で、佐竹に会いたくないな」

「佐竹さん、拗ねちゃいますよ」

「ハハ。男が拗ねたところで、可愛くないな」
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