彼女は実は男で溺愛で
「俺の父は、家に寄り付かなくて、誰だかわからないような人だった」
グッと拳を握り、彼はつらそうに吐露する。
「女遊びが激しい人で。だから俺は、父の悪行の全てが自分に来ているのだと思ったよ。父のようになれない風貌で、生まれたのだと」
彼は一気にそこまで話すと、私を見つめ、表情を緩めた。
「女性も、一生愛せないものだとばかり」
「悠里、さん」
彼の握りしめていた拳の上に、私は自分の手を添えた。
彼は握りしめていた手のひらを解き、私と手を重ねる。
「親と自分は別なんだと、思えるまでに随分時間がかかった。毛嫌いしていたくせに、父に縛られて生きてきた。解放されていいんだと、史ちゃんに出会えて思えた」
「私、ですか。私はなにも」
「史ちゃんは、俺に。いや、今度にするよ」
彼は顔を背け、話をやめてしまった。