彼女は実は男で溺愛で

「そっか。うん。でもさ、decipher に買いに行けないよ? 俺、販売促進課の染谷ですよ?」

「あ、そうですよね。すみません。私、勝手にショップのお手伝いには、女性側の悠里さんで行っているのだとばかり」

「本当はその方がお客様にも勧めやすいから、そうしたいのだけれど。同じ販売促進課の人とも、行動するからね」

 女性側の悠里さんと、彼が同一人物だというのは秘密だ。

 知っている人は数少ないみたいで。

 胸がチクリと嫌な音を立てそうになり、慌てて明るい声を出す。

「久しぶりに悠里さんとも会いたいし、今日は女子デートしましょうか」

 笑顔を向けると、彼は私に顔を近づけ、頬にそっと唇を触れさせた。

「悠里、さん」

「キスしたくなったら、困るから男でいるよ。decipher には行けなくても、他のショップを見たらいい」

 私は唇の触れた頬に手を当て、「はい」と小さく頷いた。
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