彼女は実は男で溺愛で
「お母さん? 今日入社式でね」
「そう。どうだった?」
「初日だから、まだよく分からないけれど、頑張るよ」
「そう。いつ、帰ってきてもいいんだからね。史乃の家なんだから」
懐かしく思える母の優しい声に、鼻の奥がツンとした。
寂しい気持ちが押し寄せそうになり、悟られないように明るく振る舞う。
「うん。ありがとう。でも、入社したばかりの娘に帰ってきてもいいなんて、縁起でもない」
「そうよね。でも、史乃は昔から頑張り過ぎるところがあるから。お父さんも心配してるのよ」
心配性の母の言葉を笑い飛ばす。
「大丈夫だよ。すごく面倒見のいい先輩とも、お知り合いになれたし」
悠里さんの顔が浮かんで、心強く思えた。
「それを聞いて安心した。体に気をつけるのよ」
「うん。分かってる」