彼女は実は男で溺愛で

「ごめんね。突然、こんな話を」

「いえ。驚いてはいますけれど」

「そうだよね。騙すつもりではなくて、言うつもりもなかったというか」

 彼の一言に寂しくなる。
 けれど、それも仕方ないのかもしれない。
 彼とは住む世界が違い過ぎる。

「俺が腐らずに、なんとかここまでいられたのは、史ちゃんのお陰なんだよ」

 唐突な告白に、私は目を白黒させる。

「私がお会いした時には、素敵な方でしたよ」

「そう? ありがとう」

 柔らかな表情をさせる彼に見つめられ、ものすごく愛されているのだと勘違いしそうになる。

 今、まさに、住む世界が違うからと、別れを告げられそうなのに。

「どこまで話したかな。大学生で decipher のショップでバイトを始めて。女性物のお店だからね。浮いていたよ」

 自分の恵まれた生まれに胡座をかかず、大変な思いをしてきたから、きっと悠里さんは素敵なのだと、彼の人間性を垣間見た気がしていると、急に話が思わぬ展開を迎える。
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