彼女は実は男で溺愛で

「そこで史ちゃんに会った」

「え。私? え」

「覚えていない? あ、待っていて」

 彼は中座して、再び戻ると私の前にヘアピンを置いた。
 ハートがついていて、そのハートに decipher と刻印してある。

「接客はイマイチ苦手だったからね。自作で作ったものを置かせてもらって。これは、その第一号」

 可愛いピンを手にして、私は記憶を辿る。

 悠里さんはピンを手をする私を見つめながら、話を続けた。

「コロンとした背の低い可愛い女の子が、友達のプレゼントを買いたいとやってきてね」

「あー!」

「思い出した?」

 高校1年か2年の時。
 なけなしのお金を握りしめ、友達が好きだったブランドの decipher に買い物に行った。
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