彼女は実は男で溺愛で
携帯のアラームが耳障りで、もぞもぞと手を伸ばす。
その手は、温かいなにかに触れた。
「ん。今日は、もう休もう」
寝ぼけた声を出す悠里さんが、脚を絡ませてくる。
「ダメですよ。人として堕落しています」
「ハハ。真面目」
からかうような笑い声を上げつつ、私にキスをしてくる彼が、甘い雰囲気を出す前に話題を変える。
「そういえば、村岡さんがご結婚されるそうで」
「うん。彼女も、結婚が逃げではなくなったから、決心がついたようだ」
「逃げ?」
「うん。今は会社に行くのが楽しいから。結婚しても続けるって」
「え」
まさかこんな風に、こんなにも嬉しい理由を聞けるとは思わなかった。
私の夢は、会社で仲のいい友達と恋話をすることで。もちろん、穏やかで優しい彼がいて。
「昨日は俺も、ムキになってしまったけれど。俺、人事に口を出せても」
彼は、どこか言葉を選ぶようにして続けた。
「史ちゃんが decipher を受けるようには、仕向けられない。だからやっぱり、運命、かもしれないね」
彼は軽くキスをして、起き上がった。