彼女は実は男で溺愛で
恋心とひどい仕打ち

 仕事を終え、ロッカーで着替えを済ませるとエレベーターへと向かう。
 その途中、大柄で鋭い目つきの人に出会した。

 本部長、西園龍臣。

 同じ部署だから、すれ違うくらい普通かもしれない。
 けれど、向こうから歩いてくる彼を見るだけで足が竦む。

 下っ端の私が、関わる機会はないから大丈夫。
 目立たないように隅で小さくなりながら、呪文のように心の中で唱える。

「おい」

「ひっ!」

 関わる機会はないはずなのに、声をかけてきたのは、その彼だった。

 怖いから極力視界に入れないようにしていた行動が仇となって、彼が間近に迫るまで気づけなかった。

「お前、悠里とどういう関係だ」

「へ」

 間抜けな声が漏れ、彼の片眉が上がる。
 心の中で悲鳴を上げ、質問に答えた。

「あの、よくしていただいています」

「俺は、どういう関係かと聞いている」

 苛立ちが声色からも伝わって、怖ろしさから私の指先がカタカタと震え出す。

「あの、私がお姉さんのように慕っているだけで」

「ふん。姉ね」

 気が済んだのか、彼は射抜くような眼差しを外し、去っていった。

 私は怖ろしさと、解放された安堵感で、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。

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