彼女は実は男で溺愛で
ショップでスーツを選ぶ時に「アパレル関係でしたら」と、入社式用とはいっても華やかなスーツを勧められた。
もちろんdecipherで選んだのだけれど、「decipherに入社するんです」なんて言おうものなら、どんなスーツを勧められるのかと戦々恐々として、口には出せなかった。
そしてdecipherの中でも、お堅い企業でも着ていけそうな紺のどこにでもありそうなスーツにした。
リクルートスーツと並べ、自分でも違いを見つける方が難しいなと、苦笑したほど。
けれど、私は自分の身の丈というものを弁えている。
「私には、華やかな服は似合わないので」
小さく告げると、彼女が私に詰め寄って、両手をギュッと握った。
「どうして? きっと似合うと思うわ」
近い距離から真っ直ぐに見つめられ、女性相手とは言え、ドキマギする。
彼女からは、ふんわりと上品でエレガントな匂いが香る。
「あの、ちんちくりんで、その、女性らしいメリハリにも欠けますし」
緊張から、つい自分のコンプレックスを自供する。
「まあ」
手を口元に当て、可愛らしく驚いた彼女に、親しみを感じた。
美人は可愛い仕草もサマになるんだな、と、感心する。