彼女は実は男で溺愛で
「分かった。私にいい考えがある。あ、でもいけない。新入社員なら、配属先に行かないと。ここで油を売っていては、いけないわ」
指摘され、気がついた。
先ほどの会場に、もちろん私以外の新入社員はいなかった。
各自、配属先に向かったのだ。
「あ、わ、私、総務課みたいで」
「そう。なら、この隣の本社ビルの3階よ。広くて迷ってしまってと言えば、初日だもの多少は大目に見てもらえるでしょ」
「はいっ。すみません。失礼します」
勢いよく頭を下げると、彼女は小さく手を振って言った。
「私、悠里(ゆうり)っていうの。仕事が終わったら、ここの休憩室で待ち合わせしましょう」
「え、はあ」
待ち合わせ、なんの?
初対面のこんなに綺麗な人と、待ち合わせをする現実が想像できない。
「ふふっ。あなたの服装を、コーディネートしてあげる」
人差し指を口元に当てた悠里さんはウィンクをして、微笑んだ。
私が男なら、恋に落ちています。確実に。
女同士でも危ういよ……と、自分の速まる鼓動を抱えながら、もう一度お辞儀をして本社ビルへと急いだ。