雨の滴と恋の雫とエトセトラ

 瑛太がトイレから出てきた私に気づくと、自分もトイレに行きたくなったのか、こっちに向かってきた。

 私とは何も言わずにすれ違い、そしてドアを開けてさっさとトイレに入っていった。

 私は席に戻るが、自分が少しそこにいなかったことで空気が違っているように思えた。

「もしかして、私がいない間に瑛太が私のこと何か言ってた?」

 冗談っぽく笑って言ったつもりだったが、意外にも拓登は真剣に「そんなことないよ」と首を横に振った。

 明彦は残っていたスナック菓子を忙しく急につまんで食べている。

 やはり何かを誤魔化そうとしている空気が流れてるように思えてならなかった。

「拓登は瑛太といつのまにか仲良くなっちゃったみたいだね」

「えっ? そ、そうかな。でも何回も会っちゃうと無視するわけにも行かないし、普通にしているだけだけど」

 なんだかこの時、朝の事をそれとなく聞いてみたくなった。

 そこで私はカマをかけてみた。

「それがさ、中学の友達が、今朝、電車で瑛太を見たとかメールを送ってきて、その時私と同じ制服を着た男子が一緒だったとか言ってたんだけど、それってもしかして拓登のこと?」

「えっ、ああ、今朝はそういえば偶然同じ電車だった」

 拓登は素直に認めた。

 私の推測では、ここは隠すんじゃないかと思ったが、別に隠すことでもないようだった。

 やっぱりただの偶然だった。

 どうしてあの時、私は変にかいぐって逃げてしまったんだろう。

 一人で悶悶としていた事が馬鹿に思えた。

 だけど、隠すことがないのなら、一言出会ったと言ってくれてもよさそうなのに。

 そうしたら、私も変に思うこともなかった。

 ただいい忘れてただけだろうか。

 それとも心配かけないようにと気を遣ってのことだったのだろうか。

 色んな思いを抱きながらも、笑顔だけは忘れないように笑ってみたものの、どこか引き攣って不自然になってしまった。

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