雨の滴と恋の雫とエトセトラ
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 池谷君が現れてから、私中心に話していた内容も憚られてしまい、暫く雑談が続いたが、そろそろいい時間になり、私達の方が先に腰を上げた。

 ここで池谷君も同じように腰を上げたら家路が同じなので困るのだが、ちらりと池谷君と明彦を見れば、なんだか真剣な顔をして話し込んでいたので、いそいそと行動する。

 私達が支払いを済ませても、池谷君は気にせず立つ気配がない。

 何をそんなに話しこんでいるんだろうと、私の方がなんだか気になってしまった。

 真剣に明彦と話している顔は、私がイメージする池谷君ではなかった。

 そんな事を気にしても仕方がないと、無視を決め込んだ。

「千佳ちゃんたち、今日は来てくれてありがとうね。またいつでも寄ってね。この時間はあんまりお客も来ないから穴場だよ」

 カウンターの端にあるレジにお金を入れながらヒロヤさんが言うと、千佳はまた目をキラキラさせていた。

「ヒロヤさん、自分で言ってたら世話ないけど、もっとお店を繁盛させた方がいいよ。それに私達にサービスなんてしなくていいから」

 ヒロヤさんは正規の値段よりも安くしてくれていた。

「この時間は学生の人たちは大歓迎だからいいの。それに忙しいよりも、ゆったりとした方がいいからね。これでも朝はモーニングサービス、昼間はランチタイムとかあって、時間によってはお客は来るんだよ。大丈夫、大丈夫」

 ヒロヤさんは物腰柔らかく、優しく笑っていた。

 人柄がよくあらわれている親しみのある笑顔だった。

 かの子もみのりも「また来ます」と答え、私も「美味しかったです」と声をかけると、メガネの奥で一層目が細く垂れていた。

「アキ、先に帰るけど、あんまり遅くなるなよ。それにヒロヤさんに迷惑かけるんじゃないぞ」

「うるさいな、ちょっと数分早く生まれただけで姉貴気取りなんだから」

「数分でも、姉には変わりない。文句言ってんじゃないの。宿題手伝ってるの誰だっけ?」

「はい、もちろん、お姉ちゃんです」

 急に態度を変えた明彦は、人懐こい笑顔で答えていた。

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