瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
『本当は彼女を生まれた村へ帰すという約束で情報を得ていましたが、それも危険だ』

 このままでは、自分の血を引く多くの者まで危険にさらしてしまう。それだけは防がないと。

 レーネは首にかかっているゲオルクの手をどかそうと抵抗を試みる。けれど力の差は歴然だ。冷たくて熱いこの手に自分を含めた多くの命が握られている。

 私はまだ、ここで終わるわけには……

 視界が真っ暗になり奥ではなにかがチカチカと光る。気を失う直前、それはもうほぼ本能だった。考えるよりも先に袖口に潜ませておいた短剣を手に滑らせ、目の前の相手に突き立てていたのは。

 首から相手の手が離れた瞬間、ゲオルクと目が合ったがその表情までは定かではない。

 生温かいなにを浴び、それが血だと気づいたときレーネは声にならない叫び声をあげて、今度こそ意識を手放した。

『許さない。絶対に許さないからな』

 生々しく耳に残っている声がずっと消えない。

 ゲオルクと対峙した後、目が覚めたレーネはカインに介抱されていた。どうやら彼が連れ出してくれたらしい。ひどく取り乱すレーネを落ち着かせ、状況を説明する。

 ゲオルクは重傷を負ったが、一命は取り留めたとのこと。それを聞いて全身の力が抜けたのをよく覚えている。けれど、すぐに自分に安心する資格はないと思い直す。

 それから村に戻り、異様な事態に気づいた。今まで神子と血の分けた村のすべての女性の左目は右目の色に関係なく金色だったのだが、突然、多くの女性の左目はすべて右目の色と同じになっていた。
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