瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 意を決して、レーネは重厚な木製の机に備え付けられている引き出しに手をかける。下から順に力を入れて手早く一段ずつ開けていった。

 意識せずとも心臓の音が大きくなり、開け閉めする度に軋む引き出しが不協和音を奏でる。

 不快さに顔を歪めていたレーネだが、一番上の段の引き出しを開けきったところで呆然とした。結果的にそれらしきものは見つけられなかったのだ。

 他の場所はある程度探しきり、城内ではここが大きな有力候補だったので落胆の色を隠しきれない。

 項垂れていると、不意に机の端に置かれている紙が目に入った。体裁で手紙だと察したが、よく見てレーネは思わず手に取った。そこに書かれている文字に見覚えがあったのだ。

 確認すると【Sophie(ゾフィ) Neutral(ノイトラール)】と妹のサインが入っている。どうやらこれは、ゾフィがクラウスに宛てた手紙だ。

 国章が入っていないところを見れば、国家の正式な文書ではなくゾフィが個人的に書いたものだと推測できる。

 瞬時に中身を読んでしまいたい衝動に駆られたが、そこはぐっと堪えた。そのとき、人の気配を感じ、レーネは元の位置に手紙を戻し慌てて机の下に身を潜めた。

 ややあって扉が開き、ふたりの人物が中に入ってくる。足音から察するにクラウス本人ではない。

「陛下が書状をお送りして、こんなにも早くゾフィ女王からの返事が届くとは少し驚きました」

 ゆったりとした喋り方が特徴の声の主はザルドだ。クラウスの補佐役として挨拶された記憶がある。
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