瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 日常生活には問題なく、目の(わずら)いは剣の腕でカバーし他人に悟られることなどなかった。

 もしかして……知っていたの?

 先ほどのクラウスの言葉を元に、改めてレオンとの戦い方を振り返れると、彼がレオンの目に関してあらかじめ情報を得ていたのではという考えが自然と湧き起こる。

 とはいえレオンの剣の腕は相当なもので、普段から剣を扱う身ならまだしも、あんな突拍子もない勝負に乗るだろうか。

 まさか……。

 レーネの思考が別の角度に移る。

 国王が今から関係を築こうとしている他国を訪問する際に、わざわざ自分の剣を預けてまで持ってくるだろうか。

 下手な武器は相手を刺激し、挑発行為にも受け取られる。

 非常事態に備えてだと気にも留めていなかったが、そうなったときのために彼の傍にはアルノー夜警団の面々が控えているのだ。

 結論を導き出したところで、目の前の男と視線が交わる。レーネの金色の瞳が自分を捉え、クラウスは満足げに微笑んだ。レーネは確信する。

 クラウスはレオンの目云々以前に、こうなる事態をすべて見越していたのだ。レーネが求めても素直に応じないことを含め、レオンを使って無茶な勝負を挑ませるところまで。

 それらを全部予測したうえで、レーネの話に乗ってきた。その証拠に、現状だけ見ればクラウスの望み通りの展開になっている。

「どうした?」

 余裕たっぷりに尋ねられ、レーネは目線をわずかに落とす。

 思えば、彼に触れられた際、手のひらには剣を扱うときにできる小さな傷があった。この日に備えてかは定かではない。けれどレーネが思う以上に相手は用意周到だったのだ。
< 21 / 153 >

この作品をシェア

pagetop