Donut Hole
「……腹減った。早く選んでよ」

クロックムッシュを選んだ彼は、かなり不機嫌そうに言う。初めて見た怖い顔に、私はビクッと肩を震わせた。私の知る彼じゃなかった。彼はもっと、優しいはずなのに……。

「う、うん。もう決まったから」

本当はもう少し考えたかったけど、彼が怖かったのですぐに選ぶ。お会計を済ませ、コーヒーを飲みながらドーナツに口をつける。

「今日、とっても楽しかった!久しぶりのデートだよね?張り切っておめかししてよかったかも!」

私がそう言っても、彼は「あっそう」とスマホをいじりながら言う。前まではたくさん話していたのに、何で?

お高いドーナツは甘くておいしい。味わって食べていたら、彼の方が先に食べ終えた。彼のコーヒーももうない。

「ごめんね。すぐに食べ終えるから」

私が慌ててそう言いドーナツを口に入れようとすると、「その必要はないよ」と彼は言った。それは私を気遣う優しいものではなく、突き放すような冷たい声ーーー……。
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