一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
 伊都さんとの買い物から帰宅して二階の部屋に戻ったら、ベッドや椅子などの家具を残してなにもかもが消えていたのだ。棚に置いていた雑貨もクローゼットの服も、跡形もなかった。

「どうして急に。泥棒……のわけないですよね。楓さん、なにか知ってますか?」

「いえ、私はなにも。でもそういえば、さっき所用があって出先から戻ってきたときに、本邸の使用人とすれ違ったような」

 顎に手をあてて首をかしげる彼女を、まじまじと見つめる。

「本邸の使用人って、普段はここに来ない人たちですよね」

 その人たちが、私の荷物を持って行ったってこと?

 どうして……。

「まさか。今になってやっぱり私はこの家にふさわしくないってことになったんじゃ……」

「そんなまさか」

「だって、ほかに私の荷物を持ち出す理由なんてあります?」

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