一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
 そのとき、カバンの中でスマホが震えた。半ば放心状態のまま取り出してみると着信だ。見覚えのない番号を不審に思う余裕もなくそのまま出ると、低い声がした。


「俺だ」

「俺?」と繰り返すと、少し笑ったような声で「お前の旦那様だよ」と返ってきた。

「引越作業は終わったか?」

「引越作業って、え、まさか。あなたが勝手に手配したんですか⁉ どうして」

「どうしてもなにも、おまえはこれから俺の家に住むんだろう」

「だからって、こんなに急に」

 通りの真ん中で話しこんでいたせいだろうか。すぐそばで人の気配がし、私は道路の隅に寄った。スマホに耳を押しあて、声を潜める。

「困ります、私にだって事情が」

「あんなぼろアパートに住んでなきゃいけない事情か?」

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