一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 電話越しに含み笑いが伝わってきてムッとしていると、肩を叩かれた。スマホを持ったまま振り返り、そこに立っていた人物に唖然とする。

「それより愛、今から――」

「すみません、ちょっと切ります」

「はっ?」

 通話を切り、私は振り返った。スーツ姿のその人は、黒縁メガネの奥の目を柔らかく細めて笑っている。ついさっき、会社で顔を合わせていたときと同じ、人が好さそうな顔で。

「やあ、愛ちゃん。なにか困りごと?」

「沢渡さん。どうしてここに……?」

 毎日一緒に仕事をしていた彼は、派遣社員の私にもとても親切にしてくれたし、頼りがいのある同僚だった。

 だけど、それは職場においての話だ。会社を辞めた今、この場所に沢渡さんがいることの違和感が凄まじい。

 不穏な音を立てる胸を右手でぎゅっと押さえていると、彼はなんでもないように口にする。

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