負け犬の傷に、キス



「津上さんありがとう。……ごめんな」




こうべを垂れる俺に、津上さんは戸惑う。




「学校をサボらせて、家にも帰らせてあげられなくて。いい考えも思いつかないし……」


「謝らなきゃいけないのはわたしのほうだよ。わたしに付き合って、草壁くんまで家にも学校にも……」


「俺は慣れてるから。でも津上さんはそうじゃないだろ?」




土曜日から俺と津上さんはこの洋館で寝泊まりしてる。


3階にベッドのある個室とシャワールームが完備されていて、下っ端が買い出しに行ってきてくれるから生活には困らない。ちなみに、もちろん部屋は別。同じ部屋とか、俺にはまだ恥ず…………うん、早い。



昨日は祝日だったから
今日が誘拐してから初めての登校日。


学校に行ったらおそらく津上さんは連れ戻され、俺は警察に連れて行かれる。やむを得ずサボるほかなかった。




「弱いなりに立ち向かうには、今はこれくらいしかできないから。高い学費をムダにしちゃうのは申し訳ないけど、その分ここで勉強するから大丈夫!」




ソファー横に置いていた、大きめのトートバッグ。

そこから教科書や単語帳を取り出して、津上さんはニイッと笑う。



つられて俺も笑う。

津上さんの表情がもっとゆるんだ。


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