負け犬の傷に、キス



「近ごろイカれた不良がそこら中で暴れてるんだってさ~」


「それって、もしかしなくても……」


「あいつらの標的のことだろ」




……だ、だよな。



“薬”のうわさがいよいよ表立って流れ出したのか。


俺が協力したことで“薬”のめぐりが悪くなって中毒者を焦らせてたり……?

考えすぎかな?



ワイシャツの俺と柏

その上からベストをまとった薫に


陰から送られてくるのはたいてい殺気だけれど、最近はやけに嘲笑が多い。


今だって。



はーあ、うたかたの平和だった……。




「すっげぇ悪ぃっつーのは?」


「“無色”も暴れ回ってるってうわさ。不良を大量に狩ってるらしいよ」


「怖っ……!」




狩ってるって何!?

治安が悪いどころじゃない!


薬物使用者だけじゃなくて“無色”まで派手に動かれたら……えらいこっちゃ。


俺の平和はいずこに……。




「暑さに頭やられたんじゃねぇの」


「脳みそ溶けたのかもね」


「たしかに最近急に暑くなってきたけど!」


「俺も便乗して暴れてやろーか?」




そこかしこで隠しきれてない嘲笑に、柏の八重歯が不敵にぎらつく。


一瞬で嫌な視線や嗤いが一掃された。




「相手方は乗り気じゃないみたい」


「う、うん! それがいいよ! ケンカしないにこしたことない」


「チッ。つまんねぇヤツら」




その「ヤツら」には俺も入ってたり……!?

不良が全員ケンカ好きだと思ったら大間違いだからな!


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