咎人と黒猫へ捧ぐバラード
下階の義理の父親と人工生命体の姉が掃除をしながら天井を眺め、思惑を勝手に巡らせている頃。

鷹人が買ってきたオモチャを取り出していると黒猫は待ちきれないのか匂いを嗅ぎ、そわそわと青年の周りを動いている。
袋から取り出した途端、飛びかかるように夢中で遊び始めた。

「すっかり親バカね」

鷹人の部屋は猫グッズだらけだ。

「あなたのことも、覚えているみたいだな」

今回は警戒もせず真吏の振る猫じゃらしを夢中で遊んでいる。

「前に会った時より、大きくなったね。まだまだ子猫だけど。名前は決まった?」

夢中で追いかける黒猫に自然と笑顔が零れる。

「ネマだ」
「ネマ?」

日本の妖怪の名前から取った名前だという。

「ネコマタのネマ、ね」

真吏がそっと撫でる。

「そっかあ。良かったね、名前をもらえて。可愛いし、面白いわ。いいなあ、猫」

真吏のマンションはペット不可であるため、飼えない。

「こいつは完全には猫じゃない。見た目には猫だが」

青年の言葉に真吏は顔をあげる。

「遺伝子操作とか?」
「そんなんじゃない。クローンでもない。だが珍しい何かだ」
「本物のネコマタなの?」
「さあな……ただ」

鷹人が黒猫の頭を撫でた。

「こいつもおれも、生きていることには違いない。死ぬまでの間は生きる。それだけのことだ」

黒猫に指を伸ばすと喉を鳴らして顔を磨り寄せている。
黒髪の美青年が、黒猫と戯れている。
女子力の高いパンケーキ作りが得意で、煮込み料理も旨いという。
無口で無愛想でヒューマノイドを破壊してしまう強さとやや無慈悲な所もあるが、自分を持っている若者だ。

年下には興味はないはずなのに、この若者は惹き付けられる魅力がある。
真吏はもっと青年を知りたいと思った。
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