咎人と黒猫へ捧ぐバラード

真吏の記事が最初に週刊誌に掲載されたのは一ヶ月前の事だ。
それはとある少年殺人事件を追ったものである。
加害者少年に壮絶な暴力の末に殺害された被害者について記した物であり、警察が被害者に対しての対応に非があった事を暴いたものだ。

その事件を更に深く探った結果、事件の揉み消しを計ろうとした警察の上層部が、被害者に落ち度があるような発表を行った事。
更には被害者の両親が届けを出した当時の警察署の署長が、加害者の父親であった事がわかった。
驚くべきは署長自身、それも加害者の親という立場にありながら二週間程度の謹慎という、ごく軽い物であった事だ。

そして昨夜のヒューマノイド。

殺害された少年は家庭用ヒューマノイドの修理会社に勤務しており、彼の上司は前々から暴力の事実を把握していたのにも関わらず、見て見ぬ振りを続けていたのだ。

その上司というのは加害者少年の父親であり、主犯格少年の父親の警察署長とは学生時代からの古い友人関係である事が判明した。

加害者の少年達は現在、警察の拘置所に留置されている。
取材に当たった後、真吏は嫌悪感を覚えずにはいられなかった。

彼等が警察に連行されてから三度ほど裁判が行われているが、殺害しておきながら自分は幸せになりたいと、被害者家族を逆撫でする発言を残しているのだ。
真吏が記事を掲載し世論にならなければ、この少年達は親達の権力で無罪放免になっていただろう。

何の罪もない人間を実は「ただのストレス発散」という、軽い感覚で命を奪った彼等が事件を反省しているとは思えない。
最高裁判所による判決の日まで、あと二週間。

更に上記を深く追求した記事を、次週発売の週刊誌に掲載される予定である。
世論が流れを変えると真吏は信じたい。
この情報は、どこからか漏れたのだろう。
本能的に危険を察した真吏は、護衛を依頼したのだ。

ヒューマノイドを使い自分が襲われる確信はあった。
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