愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「ありがとう」

それでも瀬野はいつも通り穏やかな笑顔を浮かべているため、この違和感の正体を探ろうとせず、気のせいだろうと思うことにした。


そして外に出ると、真っ先に瀬野は私の手を握る。
大きな手に包み込まれ、私もギュッと握り返した。


「……珍しいね」
「一応デートだからね」

「じゃあキスも外で…」
「グロス塗ってるからダメ」

「えー、悲しいな」
「帰ってからなら考えてあげてもいいよ」


あくまで受け入れることはしない。

上から目線の物言いでも、プラス発言なのだから許してほしい。


「じゃあ“それ”は帰ってからの楽しみだね」


口角をあげる瀬野。
これはもうそれをする気満々だ。

まあ別にいいのだけれど。
その代わり今はダメである。


「ちゃんと沙彩と真田にお土産買わないとね。
何がいいだろう」

「水族館のお土産が一番いいかな」
「そうだね」


瀬野と手を繋いで歩き、駅へと向かう。
休日の朝の電車は空いていた。

けれど目的地に近づくにつれ、人は多くなってきた。

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