愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



その時初めて瀬野は満足そうに笑う。
自分の何かを私で満たしているようだ。


「……瀬野、最近おかしい」

かれこれ1週間は経っただろうか。
目でわかるほどに瀬野の様子がおかしい。


その理由は聞かなくても大体わかる。
きっと本人もわかっていることだろう。


「…ごめんね、こうでもしないと安心できなくて」

また不安そうな表情。
今の彼はあまりにも不安定すぎる。


「私があんたから離れるかもって?」
「川上さんが俺の拠り所だから…」


本当にらしくない。
やっぱり瀬野の中で母親の存在は大きいのだ。

どうにかできないかと考えを練るけれど、良い案が全く浮かばない。


そもそも瀬野の母親の居場所なんて、誰にも───


「……あっ」
「川上さん…?」


可能性があるかもしれない。
瀬野の母親の居場所を探し当てられる人物が。


「ねぇ、瀬野」
「……どうしたの?」

「母親に会って話す気はない?」
「───え」


彼の目が大きく見開かれる。
きっと予想だにしない言葉だったのだろう。

けれど私は本気だ。
どうか会って話をしてほしいと。

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