愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「ふっ、本当にかわいい。
こんなに照れて」
どうしてこんなこと、今やるんだ。
教室にいるクラスメイトから視線を感じる中で。
本当に恥ずかしい。
そのせいで『照れてるかわいい』だの、『涼介くんかっこいい』だの、各々が騒いでいた。
「愛佳が照れてる、かわいい!
ナイスだ瀬野!」
なんて、沙彩も瀬野の味方なのだから許せない。
さらには期待の眼差しを瀬野や沙彩に向けられるため、もはや逃げ場などない。
キラキラと輝かせるその瞳は、次は私の番だと告げていた。
「……っ、い、言えばいいんでしょ言えば!」
もうどうとでもなれ。
今日でこのクラスともサヨナラだ、周りの視線なんか気にせずに。
「り、涼介…!
もうこれで満足でしょ!?」
まだ終業式が始まるまで時間はある。
投げやりに瀬野の名前を呼んだ後、私は教室から逃げた。
本当に最悪、みんなの前であんなことさせるとか。
恥ずかしさと怒りが混じる中で、少しでも教室から離れようとしていたけれど。
「川上さん、今からどこ行くの?」
「……来ないで」
瀬野は私を追いかけてきた。
ここで言い合いすれば、また良からぬ噂が立てられかねない。
そのためなるべく小さな声で瀬野を突き放したけれど、彼は逆に私の耳元に顔を寄せて一言こう呟いた。
「せっかくだし、2年最後にふたりきりになれる場所に行こうか?」
甘い声での誘い。
まだ時間があるからって、そんなこと言って。
中々帰ってこない私たちを不審に思われたらどうするんだ。
「……ダメ」
もちろん私は拒否する。
けれどそれさ口先だけの拒否で。
手は瀬野の袖をそっと掴んでいた。
「じゃあ行こうか。
たくさんかわいがってあげるからね」
きっとそこで何をされるのかなんて、考えなくてもわかる。
それでも私は彼の誘いを受け入れたのだ。
誘ってくる瀬野も中々だけれど、それを受け入れる私も私である。