ご利益チョコレート


走り去る国島さんの背中をぼんやり見送る。
逃げ帰りたいけどお財布もスマホもバッグの中だ。

フッた女なんかほっといてくれればいいのに。

怪我をした後輩を見て見ぬ振りはできないということか。


ぐるぐると考えていたわたしの横に音もなく白いハイブリッド車がハザードをつけて止まる。


「西林」


運転席から国島さんが降りてきた。


あれ?


確か通勤は自転車だったよな……?


疑問を口にする間もなく松葉杖を取り上げられて、腰を抱かれて助手席に入れられる。


ひょっとしたら会社帰りに多田さんとどこか行くつもりで…………?


考え出すと多田さんに申し訳なさでいっぱいになった。明日、山程謝罪しないと。


会社前の通りを北に向けて車を発進させた国島さんの横顔からは何の感情も読めない。


「あのっ、国島さん!わたしの家、地下鉄の終点駅からまだ北にあがるんで大変やし、駅で降ろしてもらったら……」


気まずい沈黙だけが車の中を支配して、わたしは何の答えも貰えなかった。
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