舞姫-遠い記憶が踊る影-
そんな街中同様に、この店がいつもと様子を違えることがあるとするならば、壁に飾られたヤドリギと、大人の背丈を少し超えるくらいのモミの木が一本、そして卓上サイズのクリスマスピラミッドがカウンター横に飾られていることだろう。
モミの木にもピラミッドにも派手な飾りはないけれど、いくつものオーナメントが飾られていてクリスマスを歓迎している。
「この飾りは初めて見たな」
「そうかい?ここいらは雪がよく降るだろう。どうしたって大工仕事や流通というのが滞りがちになっちまうからね。職人たちの冬の間の手慰みさ」
「なるほど。腕のいい職人達がたくさんいるし見ごたえがありそうだ」
「このクリスマスピラミッドはね、ろうそくを灯してやるとその熱で上についている扇が回転するんだ。その動力を使って台が動くんだよ」
「なるほどね。それは楽しみだ」
「夜になったら忙しくてなかなか見れないだろう。ちょっと待っておいで」
物珍しそうに飾りを見つめるタキに、嬉しくなってアタシは早速ろうそくに灯りを灯す。
ゆらゆらと揺れる火が少しばかり暖かく感じさせる。
やがてゆっくりと扇が回転し、続いて台座が回りだした。
台座には小ぶりな手作りのオーナメントが並んでいて、それがゆらりと揺れる炎に照らされいっそうの可愛らしさがある。
「へぇ!かわいいな」
「そうだろう?」
得意げに答えてアタシはコーヒーカップを片付けた。