舞姫-遠い記憶が踊る影-
堪らず、静かに瞳から雫を零すこの優しい青年をアタシは胸に抱きかかえると、その心と過去に、ほんの少しだけ触れた気がした。
賑わいを見せる通りとは裏腹に、静かな時間が二人を繋いだ。
静かな時間を打ち破ったのはアタシの腹の虫というお約束だったが、場を和ませるには十分だ。
アタシ達は少しの照れを滲ませながら互いに顔を見合わせ、まだ賑わいの続いている街へと繰り出すことにした。
「カレン!今年も素晴らしい踊りだったよ」
「タキのギターも素晴らしかった」
「カレンねぇちゃん。今度あたしにも踊りを教えてね」
外に出ると、皆が声をかけてくる。
その声に応えつつ、手渡される料理をありがたく頂戴してお腹を満たす。
見渡す限りの人々は皆一様に笑顔で、年の始まりを喜んでいる。
「タキ!あんたの演奏良かったよ。またお店に聴きに行くからね。これ、持っていきな!」
威勢よく声を掛けられ、押し付けられるようにクレープを手渡されたのだろう本人は、おそらく少々怯んでいるのだろうが、先々で聞く言葉にタキの名前が混ざっていることがアタシは嬉しくてくすぐったかった。
立ち止まり、ゆっくりとタキを見ると、皆にしゃべりかけられることにやはり戸惑いを見せつつも、笑顔を零している。
その笑顔は決して作られた笑顔ではない。
手には余るほどの食べ物を持って、この街の住人のよう。
いや、タキはもう“よう”ではなく、この街の住人だ。
少なくとも、アタシはそう思っている。
照れた笑いを浮かべるその顔に浮かんでいた涙は、今はもうすっかり乾いたようだ。
タキが追いつくのを待って、二人で並んで街を歩く。