舞姫-遠い記憶が踊る影-

ハンナやマリィも忙しなく動いてくれている。
周りを見渡して、そろそろ大丈夫かと料理や酒の提供が落ち着く頃を見計らって着替えに行くことをジェイムズに伝えようとした頃にレイがやってきた。

「よぉカレン、今日もまた賑わってるな」
「あぁ、タキ様々さ。年始の演奏を聴いてどうやらファンが増えたようだ」
「ははっ、違いない。マリエさんもその口だろう?」
「そうそう、本当に評判がいい」
「お蔭で新しく来る客も多いのさ」
「良いことじゃないか」
「本当にね。だがこう忙しくちゃ猫の手も借りたいぐらいだよ。まずは酒と料理が先だろう?演奏も踊りも待たせちゃってね」
「違いない」
「嬉しい悲鳴ってやつだね。まぁレイも楽しんでいっておくれよ。いつもので良いかい?」
「あぁ、よろしく」

アタシはジェイムズにレイの注文を通すと、そのまま着替えに行くことを告げた。
その様子を受けてタキも準備に入るところだ。
店はまだ賑わっている。

部屋に引っ込み、踊り用の衣装を身に着ける。
胸元は大胆に開いて、腰からはフリルが華を添える。
スリットの入った裾が艶かしさを強調するだろう。
それに併せて化粧を直す。
鏡の中で向かい合う自分の肌に白粉をはたき、赤いルージュを唇に乗せる。
簡素に結いあげていただけの髪をおろし、改めてセットする。
今日は髪が揺らめかないよう、編み込みアップにしてまとめる。
衣装の話に負けないアタシを作り出す。
最後の仕上げは笑顔だ。
にこやかに笑うその奥に、ひっそりと艶を忍ばせたその瞬間、アタシはこの店の踊り子になるのだ。

店に戻り、タキと示し合わせてステージに上がる。
唇に指を添え「シィ……」と、静寂を促すと、賑やかだった客たちも期待と興奮の混じった眼差しながら静かになった。
それに満足して、ニッコリと頷くとアタシはその指を頭上に掲げてパチンッと指を鳴らした。

足はステップを踏み、指先の一つ一つを使い、アタシは踊る。
タキの演奏に乗り、アタシのすべてを使って客を虜にする。
客たちの本能を揺さぶるような、そんな踊りを、アタシは舞うのだ。

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