舞姫-遠い記憶が踊る影-

タキと交代して身体を温め、しっかりと気持ちを切り替える。
鏡に映る自分の姿を見て魂に刻まれる自分を思い出す。
アタシは白薔薇の娘、カレン。
自分の心を大切にしなさいとずっとずっと言われてきた。
大丈夫だ。

「待たせたね」

部屋に戻って声をかけるとタキが顔を振った。

「大丈夫だよ。……これ、温かいのに淹れ直しておいたよ」
「ありがとう」

アタシはゆったりとソファに腰掛けて、一息ついた。
それを見計らい、何から話せばいいかな、とタキは遠くを見て、寂しい笑顔を見せる。

「カレンさん、オレのこの目はね……満月の日に、その月を見ると、赤く染まるんだ」

やがて決心したように一つ呼吸をして、静かに話し出した。

ソファの対面にいるタキとの距離はいつも通りで、顔を上げれば表情を読み取れるほど近くにあるのに、手を組み床を見つめながら言葉を紡ぐタキの心はここではない何処かにあるようだ。
香り立つカップだけがテーブルの上に仲良く並んでいる。
アタシはその湯気を見つめながらタキの言葉を待つ。

「いつからそんな体質だったのかは全くわからない。だから多分、生まれてからずっと、だったんだろうな」

タキが見つめる先には何が映っているのだろうか。
ふるさとの面影?
在りし日の、自分の姿?
知らず、握っていた掌に力を込めていた。

「俺の住んでいた村は、わりに裕福な村でね。人々の笑い声の絶えない……、あぁ、ちょうどこの街のような感じだね。そんな村だったんだ。俺が生まれるよりずっと前に父さんが子供のころに爺さんが移住してきたって話だ」

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