舞姫-遠い記憶が踊る影-

アタシは視線をタキに向け、静かに聞く。
うつむき、膝に体重を預け手を組むタキの姿を、静かに見つめる。

「両親も、兄さんも、俺も。村には良く馴染んでたんだ。近所づきあいも良好だったし、明るい家庭でね。……幸せだったよ」

“幸せだった”と、言うその表情は、苦痛に歪んでいるように見える。
ぎゅっと、タキの手に力が入ったのが分かる。
衝動的に思わず、その手を取りたくなるが、ぐっとこらえた。
タキは今、戦っているのだ。
自分自身の過去と、そして、今と。

「俺のその眼は“満月”を見なければ現れない。なぜか、満月にしか誘発されないんだ。……だから知らなかった。俺自身も、両親も、兄さんもね」

ふぅ、と一つ大きく息を吐き出して、タキは顔を上げてアタシを見る。
真っ直ぐな瞳と視線が絡まる。
一瞬のような、数分のような、言葉以上の空気を作る。

そしてタキは次の言葉を落とした。
視線をそらすことなく。
それはまるで、アタシのことを試すみたいに。

「両親と兄さんはね、カレンさん。……俺のこの瞳のせいで、死んだんだ」

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