舞姫-遠い記憶が踊る影-

住人


タキを追ってくるものは未だこの街には現れない。
ピリピリとしていたところで仕方がないし、アタシ達はいつも通りの日常を重ねた。
タキはあの後すぐにでも出ていくのではないかと思っていたけれど、意外にもそんなことはなくまだこの街に残っている。
追手から逃げるのならばすぐに発つのかと思ったが、タキ曰く「噂が流れた程度で似たような特徴があるものがすぐに逃げたらそうですと言っているようなものだろう?」などと、もっともらしく言う。
しかし追手が迫ってから逃げるのならばそれこそそうであると言っているようなものではないか?という疑念は“一緒にいたい”という至極個人的で我儘な私情に淘汰される。

「それにしても随分湾曲して話が伝わったものだね」
「権力の前では白いものも黒になるって、いい例え話だよ」
「アンタはただ……」

生きているだけなのにね、と、タキ本人に言うことが良しとは思えなくて途中で言葉を区切った。
それでもタキには伝わってしまったようで、苦笑している。

「例え俺は誰も殺してなくて、なんて本当の話をしたところでもみ消されてしまうのがオチだからね。俺の命が尽きるのが早いか、捕まるのが早いか、それともあっちが諦めるのが早いか。できれば諦めてほしいけど」

そうしたらここにずっと居られる、と言いたいのだと都合よく捉える。
その会話をして以降、追手の話をすることは無くなった。

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