舞姫-遠い記憶が踊る影-

いつしか時は流れ、季節は巡っていた。
隣国の噂は、ぐるりと街を駆け巡ったけれども、目新しい情報もなく、徐々に憶測さえも飛び交うことが無くなっている。
寄港した船が再び海へと繰り出したのも、もう二月も前のこと。
若々しく咲いていた木々も、草花も。
後世へと実を結び朽ちていく。
枯葉の季節が過ぎ、そして―――……


「あぁ、雪が降ってきたね」

タキは裸のままの体を起こし、窓の外を見ながら呟いた。
タキの体に引きずられた布団が私の体から離れ、何も身に付けていない背中に風が入り込むと、無意識にぶるりと身動ぎする。

「サムイ」

うつ伏せたまま抗議すると、ごめんごめん、と笑いながら布団を引き上げる。
黒い瞳に、黒い髪。
象牙色の肌、引き締まった体躯。
タキ、という人物を。
ティン・クレイという人物を、今。
とても愛おしく感じる。

もうすぐ、タキがやってきてから、一年。
今年の初雪が季節を連れてくる。
今年もまた深い深い雪の季節が、訪れようとしていた。


暖炉に焚火をくべ、部屋を暖める。
軽い朝食。
季節が巡っても変わりのない日常を送っていた。
やはり噂話にびくびくとしながら過ごすよりも、変わりのない日常をアタシ達はいつだって求めた。
アタシ達はただ、平凡で平和な幸せを求めた。
それが本当に幸せなのかと問われれば、それはアタシにも分からない。
願望が見せるまやかしの幸せなのかもしれない。
それでもタキは、この街を未だ去ることはなかった。

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