……秘密があります
 結構身長はあると思うのに、何処か小動物的な雰囲気を(かも)し出している羽未が自分を見上げてくる。

 なにかこう、きゅっ、と心臓が痛くなるような感じがした。

 一瞬、反応できなかったが、挨拶を返さないわけにもいかないので、なんとか声を絞り出す。

「お疲れ」

 かなり素っ気なかっただろうが。
 普段から無愛想なので、違和感はなかっただろう。

 羽未はチャカチャカとトレーに小鉢などを取り、メインのハンバーグを受け取ると、走って逃げた。

 その後ろ姿に、あの夜、走って逃げていった羽未の姿が重なる。

 猛ダッシュで逃げていったっけな……。

 そして、決して速くはなかった。

 頬袋においしいものを詰め込みすぎて、よろめきながら走って逃げるハムスターのようだった。

 簡単に捕らえられそうだったが、それも可哀想な気がして、うっかり逃がしてしまったのだ。

 今も、頬袋満杯な感じの羽未はよろめきながら、女子ばかりのテーブルに行ってしまう。

 まるで、そこに自分を守ってくれる檻でもあるかのように。

 だがまあ、正解だな、と帯刀は思っていた。

 女の集団怖いからな。

 自分が決して近づかないことを羽未はわかっているのだろう。
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