……秘密があります
その日、羽未が会社から帰って部屋に居ると、
「貴方、この土曜が結納になったから。
他に縁起のいい日で、両家の都合がつく日がなかったのよ」
という声が下から聞こえてきた。
母親の声だ。
今日、さちこさんと電話で話したらしい。
「だから、明日、仕事が終わったら、貴方のスーツを買いにいきましょうよ。
羽未のワンピースも見に行かなくちゃ」
羽未が階段を下りていく間にも母親の言葉は続く。
「でね。
結納の前にちょっと顔合せをした方がいいんじゃないかって話になってね。
木曜日に春成さんちとお食事に行くことになったから」
下に下り、見ていると、父親が口を開こうとするタイミングで、母親が次から次へと今日決まった連絡事項をまくし立てている。
父親からしたら、いつの間にか結婚が決まり、ほら急げとばかりに結納も決まり。
気がつけば、会食会も差し迫っていて。
怒涛の展開に、なにをどう口を挟んでいいのかもわからないようただった。
羽未に気づいた父は気弱な表情で振り返り、
「……羽未。
一体、いつ、しんみりしたらいいんだ」
と訴えてくる。
はは。
すみません、と羽未は苦笑いした。