君のキスが狂わせるから
番外編 初めての夜

 夜の海でキスを交わした後、海斗は耳元で甘く囁いた。

「俺のマンションに戻ってもいいけど…それまで待てないかな」
「…待てない…って?」

 闇の中に浮かぶ海斗の顔はいつにも増して妖艶だった。
 私は、彼が口にした言葉の意味は十分に理解できていたけれど、あえてわからないふりをする。
 試すような話し方は嫌いだと言ったのは私なのに、結局駆け引きのような言葉が出てしまう。

 それでも海斗は怒る風もなく、真っ直ぐに私を見つめて言った。

「瑠璃さんを抱きたい。この前みたいに途中にはしないよ」
「……うん」

(本当は今、私の方があなたを多く求めている気がするよ)

 強く私を抱きしめる海斗の腕に胸を熱くさせながら、私はまだ始まったばかりの夜に幸せを感じていた。

***

 近くで見つけたホテルは外見よりは綺麗な内装で、部屋に入ってみても普通に一人暮らしのワンルームのようだった。
 ただ、部屋の面積の大半をとったベッドの大きさだけが『そういうホテル』であることを示していた。

「案外綺麗でよかった」

 何事もない風を装って上に羽織っていたジャケットを脱ぐと、後ろから海斗が無言で抱きしめてくる。
 驚いて息を飲むと、彼は首筋に額を当てて切なげに呟いた。
 
「そんな慣れた口調で言わないで。俺…元カレに嫉妬するの止められなくなる」
「っ、私だって慣れてるわけじゃ…」

 振り返ると、海斗の表情は今まで見た中でも最もセクシーなもので。
 こんな顔を見せられたら、触れられただけで甘い声が出てしまいそうな気がした。

(この前は倒れた後だから手加減してもらってたんだっけ。本気で迫ってくる彼ってどんななんだろう)

 そんなことを思っていると、海斗は私の顔を後ろに向かせて強引なキスをしてきた。

「っ、か…いと」
「……何?」
「待って…私、お酒も飲んで汗もかいちゃってる」
「だから? 俺も同じだけど」

 鋭い熱を帯びた視線に射竦められ、私はあっという間にベッドへと追い詰められていく。
 言葉を発する間もなく、次のキスであっさり身体がシーツへ沈められた。

 仰向けになった私を横目に、海斗はネクタイをシュッと外してシャツを脱ぎ捨てる。
 相変わらず引き締まって美しい肌を晒し、四つん這いで私を見下ろした。
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