私立秀麗華美学園
「ふふん。可愛いとか言った、仕返し」


なんだそれなんだそれ。仕返しなのかこれ。恥ずかしいけど、なんでもいいや。
ゆうかが笑いかけてくれるなら。


「……よく考えたら」


少しして、ゆうかは視線をおとすと同時に傘を持った方の手の指を動かした。


「わたしたち、手、つないだこともなかったね」

「……どわああああ! すいませんすいませんすいません」


自分の両手が何を握っていたのかということに気づき、俺は慌ててゆうかから離れ両手をあげた。


「そこまで慌てなくても」


ゆうかが俺の方に傘を伸ばしながら笑って言う。


「和人、ずぶ濡れ。帰ろ」

「……ジム、は?」

「行かないわよ。ばか。ほら、持って」

「いいよ、今更濡れても変わらないし」

「重くて邪魔なの。わたしが持ちたくないだけだから。持って」


差し出された華奢な傘を受け取ると、ゆうかは俺の腕をとり寮に続くの道の方へ方向転換させた。

そのままの距離でもと来た石畳の道を歩く。
また水滴が蒸発していきそうだ。


「……甘い物不足ー」

「帰ったら、食堂行こうか」

「やだ」


確信犯的な甘い声が、最後の一押し。


「和人の作ったフロランタンが食べたい」


俺はほてる顔を背け、花柄の傘を左側に傾けた。



















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