私立秀麗華美学園
「ダイエット、やりたくてやってたわけじゃないってことも伝えたもの。
様子がおかしかった理由がダイエットだってわかって。
そんなことすんなよ、って、言って欲しかったの。

……未樹の付き合いで一緒にやってたけどわたし、食べたい時に食べたい物食べたいし!
バターサブレだってフロランタンだって、ほんとは食べたくてしょうがなかったの!」


不機嫌気味な声でそんなことを言うゆうかが可愛くて仕方ないとか思ってる俺は、知らず表情をほころばせてしまった。


「……何、笑ってるのよ」

「可愛いな、と思って」

「…………ふん」


ゆうかは口を尖らせてぷいとそっぽを向いた。


「久しぶりに、言われた」

「え、そうだっけ。いつも思ってんだけど」

「言わなきゃ、わかんないだから」


言わなきゃわかんない。そうだよな。言う権利ないとかそんなことばっか考えて、それで肝心なことは声に出さなくても伝わってるなんて、思いあがりもいいとこだ。
どうせ怒られんなら、これからは言って怒られよう。


「やっぱ正解だった」

「え?」

「布団かぶりこんで考えた甲斐はあった!」


思いっきり笑ってみせると、ゆうかは一瞬不審そうな表情になったが、そのあと笑顔になってくれた。


「……さっき言ってたことだけど」

「ん?」

「もちろんわたしは、和人に好かれようなんて、思ってないよ」


まばたきをして小悪魔の微笑み。再びゆうかの口が開いたその時には、落ち込むとかより先に身構えていた。


「だって、和人がわたしを大好きなことなんて、もう知ってるもん」


身構えた効果はあんまりなかった。
顔が熱くなって、したたる雨粒も蒸発していきそうに思えた。
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