私立秀麗華美学園
翌日朝早くに、花嶺夫妻は月城家をあとにした。

忙しい合間を縫って食事会に参加してくださったようだ。


「体に気をつけてね。あと、もう少し和人くんを労りなさい」

「たまには連絡しなさい。浴衣も着るんだぞ。日本の夏は浴衣だ。あと、風鈴と西瓜も送るから……」


別れ際の両親の言葉には、はいはいはいはい、と一本調子でゆうか。まだ何か言いたそうな淳三郎氏を送りの車に押し込んで、ぶんぶんと手を振っていた。




両親が帰ってから、ゆうかは3日間月城家で過ごした。

3日間もあったわけだが、その間に月城の親戚が何人か来て挨拶しまくっていたり、そのうちの1日を俺はみのると共に新しい子会社の見学に行かされていたこともあって、ゆうかと2人で話をすることはあんまりなかった。


ゆうかはいつも通り自由に気楽に振舞ってくれていたみたいだが、今回はなんとなく那美さんといる時間が長かったような気がする。

何の話をしているのかと尋ねると、「世間話よ」と言われた。便利な言葉だ。


あっと言う間に3日は過ぎた。ゆうかは明日から、この間に仕事をまとめ終えているはずの両親と共に避暑地へ向かう予定だ。
月城家の門の前に立ち、全員で見送りをする。


「ごめんなさいねえ。なんだか今回、ちょっとばたばたしちゃったわね」

「しっかりおもてなしもできなくてなあ」


いいえ、と、笑顔で俺の両親と話すゆうかを眺めて、俺はぼーっとしていた。寮へ帰るまでは、ゆうかと会えないんだなーとものすごく憂鬱なことを考えながら。


「ゆうかちゃああん、体に気をつけてなああ。2学期も学園祭も、見に行……」

「来るな。もう来るな。兄ちゃんは牛と遊んでればいいんだ」

「なにおう。意地でも行ってやる。和音に断られても、1人で行ってやるからな!」


俺と兄ちゃんが言い合っていると、那美さんがゆうかに笑顔で近づいていた。
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