私立秀麗華美学園
「和人がずっとそんな感じでいたせいなんだからね。わたしがわがままなの」

「うん」

「こんな言い方したら嫌われるかもなんて心配したことなかったから、口調も辛らつになっちゃったし」

「うん」

「……馬鹿。従順。素直。ばかばか」

「あんまりけなされてる気がしないんだけど」

「ふん。ついでに紳士」

「紳士?」

「それほど思ってるくせに、何にもして来ない」


「何かしてもいいの?」なんて、漫画みたいな台詞が、俺に言えるはずもなかった。


「……俺は、ゆうかに嫌われないよーにすることしか、考えてなかったから」

「ふうん」


おもむろに、ゆうかが顔を近づけてきた。今までにないほどの至近距離に、ゆうかの整った顔があった。
小悪魔の誘惑。


「す、ストップストップストップ!」

「顔赤いーあはは」

「……あのな」

「夕食の時のお返しよ。わたしあれ、結構悔しかったもの」

「……何言ったんだっけ俺」

「言ったっていうか態度。まあ本当は、図星だったから恥ずかしかったのもあるけど。あ、忘れてるならそのまま思い出さなくていいから!」

「ええー」


不満げに言ったが、それすらも今は気にしている余裕がなかった。
やっぱりこの小悪魔には、雄吾以上に一生勝てる気がしない。もちろんこちらにも、勝とうなんてさらさら思っちゃいないけど。


「じゃあね。戻るわ。浴衣、よかったら寝間着にでもいいから着てあげて」

「あー、わかった。おやすみ、ゆうか」

「おやすみ」


すっくと立ち上がって、ほとんど走るようにゆうかは部屋を出て行った。一度も振り向かないで。

それがどうしてなのかもわからなかったけれど、それでも俺にはやっぱり笑顔しか浮かんでこなくて、その日は幸せな気分で眠りについた。











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