私立秀麗華美学園
――――

「……有り得ん」


雄吾はサイドテーブルの時計を見やり、寝ぼけ眼で己の不覚を呪った。

短針は明らかに5と6の間を指していた。これでは以前、寝すぎだろうと馬鹿にした和人よりも長く眠りこけていたこととなる。


起き上がり、背伸びをしてカーテンをひいた。西日に目を覚まされたらしい。

部屋には空調が効いていたが、布団をかぶりこんでいたせいか汗をかいていた。

信じられない睡眠時間に呆然としつつも、雄吾は部屋でシャワーを浴びた。楽な布地のパンツとポロシャツに着替えると、軽食を作って腹におさめる。


「和人のことが、言えたものではないな」


ため息をつくが、頭がすっきりとしており体も軽いことを考えれば、まあ、疲れを取るための長期休暇でもあるのだろうから、と思い直し、その日はもう勉強はしないことに決めた。


しばらくテレビをつけていたが、あまりのくだらなさに眉をひそめて見るのをやめる。

本棚をひっかきまわすが、一度読んだものばかりで、特に今再読したいと思えるものも見当たらない。

ちらりと和人の方の本棚を見るが、その隙間の空き具合に探索意欲を削がれた。


「……仕方ない」


不満そうに呟き、雄吾は財布と部屋のキーをつかんだ。ロックをかけると両方をポケットに突っ込み、寮を出て学園の方に向かって歩き出す。

どうやら図書館の入った棟へ向かっているようだった。1人で暇を持て余した、長い夜を、読書をして過ごすことに決めたらしい。


図書館では歴史小説を3冊選んだ。生徒個人個人の持つ借用カードを機械に読みこませ、分厚い本を抱えて棟を出る。

寮の方へ曲がりかけたその時、反対側で何かが動いたのが見えた気がして振り返った。20m程離れたところに人の背中が見える。

見覚えのある姿だった。眼鏡をかけていなかった雄吾は目を細める。

対象の人物は何やら足取りが危うかった。ふらふらと、道の端から端までを肩を落とした様子で行ったり来たりしながら進んでいる。


その危うさは見ていて心配になるほどで、雄吾は人物のあとを追ってしまっていた。

距離が5mほど縮んだかと思われた頃、相手が誰なのだか、雄吾ははっきりと理解した。

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