私立秀麗華美学園


ある暑い夏の日。数日前に自らの姫と共に寮へ戻った鳥居雄吾朗は、自分しかいない部屋で休暇中の課題をこなしていた。


相部屋の男は、まだ数日間は戻って来ない。

そのことを思うと自由を感じると共に――もっとも、相手がいたところで今更気兼ねなどをするわけでもないのだが――僅かな寂しさを感じないでもなかった。

話し相手がいないというのはつまらないものだ。
もちろん咲がいるが、さすがに四六時中一緒にいるというわけにはいかない。


何も言わなくても1人で口を開き続けるあの友人は今頃、姫が恋しくて泣いているだろうか、などと不遠慮なことを考えつつ、プリントをぱらりと捲る。



その日、咲は学園に残っていた女友達と、街へ出かけると言っていた。
時計を見ると、昨日の夜に、乗る予定なのだと言っていた列車の時間を、少し過ぎたところだった。
今頃は列車の中ではしゃいでいることだろう。



雄吾は眼鏡を外し、伸びをした。椅子の背を大きく傾け、そのままの姿勢で天井を見上げる。


「……暇だ」


自主的に取り組み始めたその課題も、もうあと数ページを残すところだ。

しばらく考えていた様子だったが、あくびをひとつすると立ち上がった。椅子を机に戻し、ベッドに倒れ込む。シーツはあとで伸ばそう、と思った。


「……暇だな」


再び呟く。

仰向けになって夏布団を引き寄せると、あくびが漏れた。今朝は咲を内線で起こすために早起きしたので眠気が残っている。


たまにはいいか、と思った。

例の友人にならい、たまには怠惰な休日を過ごすことも良しとしよう、と雄吾は思い、眠りに落ちた。





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