私立秀麗華美学園
翌日の朝早く、鳥居の親戚勢と、咲を除いた風來一家も帰るということで、一同は庭の隅にある駐車場に集まっていた。


「えーっ、姉ちゃん、羽美ちゃんの名前のこと言っちゃったん?」


今朝咲は起きて雄吾に会うと、羽美ちゃんが出てくるまで待っててあげて欲しいと言って、1人で家族の見送りに来た。

数日間のうち咲が1人でいる姿の方が珍しいと思うようになっていた恭真と麻由に尋ねられ、昨日あったことのあらましを咲が説明すると、2人は驚いてそう言ったのだった。


「だって知らんかってんでー? 言ったら嬉しそうにしてたよ」

「……姉ちゃん、ほんまにあほやなあー」


2人に残念そうな顔を向けられ、咲はむっとして答える。


「何が?」

「羽美ちゃんの名前決まったあと言うてはったやんか。羽美ちゃんには自分で気づいて欲しいから、黙っとこて。やから羽美ちゃんのお父ちゃんもお母ちゃんも、黙ってはったんやろ?」

「…………あ」


2人の言ったことは事実で、すっかり忘れていたらしい咲は弟と妹の呆れ顔にぎこちなく笑顔を返す。


「ま、まあ、ええやん……だってあれぐらい言ってまわな、羽美ちゃんやって……」


冷や汗を垂らして言い訳を口にしつつ、あとで美子さんと雄治郎さんに謝っておこう、と思った。


時々驚くような行動を取る姉を見ながら腕組みをしていた麻由が、鳥居邸の裏口から出て
きた人間を見て、あっ、と声を上げた。

咲がつられて振り向くと、手を繋いだ羽美と雄吾の姿だった。

羽美は、咲たちの方に近づいて来ると、空いた方の手で咲の手を握り、少し恥ずかしそうに咲の顔を覗き込んだ。


「羽美ちゃん、それ……」


羽美はいつもと違う髪型をしていた。
誰かとそっくりな、ツインテールだ。


「さきょうまゆうごろうみ」


魔法の呪文のように、羽美が呟いた。

咲と雄吾は目を合わせて微笑む。


羽美は2人の手をぎゅっと握ると、一生懸命、大きな声を出して、これから家路につく恭真と麻由に向かって言った。


「また、来てね!」


2人は少し驚いてから、同時に、うん! と大きな返事をする。

羽美を真ん中に、5人の兄弟は、みんなで笑い合った。
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