私立秀麗華美学園
「あれは別に、過保護でうっとうしいとか、そういう意味じゃないから」

「そうなんだ」


じゃあどういう、と口に出しかけ、顔を見て止める。

ゆうかは毛布を頭からかぶり直して両端を口元にもってきた。


「……心配させたくないから、っていう、そういう意味だから」


視線を流して目を合わせてくれないゆうか。

暖炉の傍で顔の色がわからないのが惜しいなあと思った。


「……ちょっとなんか言いなさいよ」

「にやけないように我慢してる」

「ちょーし乗んなよこの野郎」

「口が悪いですよ」

「……言わないよりは、マシなの」


ゆうかは毛布を膝に落とし、こっちを見て口を開いた。


「雄吾も頑張ったわけだし。
ひとのこと言えないなあと思ったのよ、わたしも。思っても口に出さないこと結構あるわ。
なんでもかんでも口に出すってのは違うけど、こういうことは、たまには伝わる形にしなきゃって」


正直過保護でもなんでもよかったけど、嬉しいのはそれを言葉にするまでの過程だった。
伝わらなかった思いを取り戻して、言葉に換えて送り出すなんて、そんな面倒な過程を、嬉しく思わないわけがない。


「心配はするけど、包丁持つのは頑張って止めないでおくよ」

「だから、コックはたくさん雇うのー」

「将来お客さん招く時とかにさ、りえさんもたまに軽食作ってくれるし」

「……その時は」


英語の教科書で顔を半分隠して言う。


「和人が作ればいいでしょ」


言葉を深読みするには勇気が足りなかった。

それでも、思ったよりは近かったんだなと、俺も数学のノートで表情を隠した。












< 379 / 603 >

この作品をシェア

pagetop