私立秀麗華美学園
「米の具合は問題ないがよそい方が下手で潰れている。味噌汁は具を入れる順番を間違えていて固さが駄目だし味噌が少ない。魚の焼き加減はまあ問題なし、卵焼きはこれからに期待といったところだな」


大事をとって翌日も学校を休んだ雄吾は、咲がゆうかにひきずられて部屋に帰ったあとで俺が作った夜ごはんに対して、こんなコメントを付けた。


「卵焼きは無謀だった」

「初めは俺だってもっと酷かった」


薄焼き卵をかきあつめたような黄色いものを箸でつまんで雄吾が言う。
雄吾が初めて卵焼き作ったって、それ、いくつの時の話だよ。


「やっぱりちゃんと評価してくれるんだな」

「ん?」

「つまり昨日の薄い反応は、咲へのプレゼントが気になってたせいだってことだ」


ぴくっと雄吾の肩が揺れる。


「……忘れてもらっても構わない」

「誰が忘れるかよ。見せつけてきたくせに」

「どうせあとで説明することを思うと追い出す方が面倒になったんだ、昨日は」

「結局に俺たちが自主的に退散したもんな。咲は泣き出すし」

「伝え方がずるいと言われた。これから先もずっとそうだと思って欲しいと言ったから、一生分を先払いされたみたいだと」

「一生分な」


言葉の重さに麻痺する程度に、2人の仲は順調なのだ。


「まあ、おかげでゆうかからいいこと聞けたし」

「いいこと?」

「雄吾のアイラブユーには負けるけど」


さすがにこれには雄吾も再び言葉を詰まらせた。


「無言が愛とか確かにずるいよな」

「俺をはぐらかそうとするとは、お前も成長したものだ。アイライクユーぐらいは言われたか」

「んなこと言われたら舞い上がってる」

「案外気づいてないだけかもな。お前どころか言う方も」


そんなことを言われても即座に動揺しないぐらいには俺も余裕を持てるようになったんだなあと思う。

受け取り方にもいろいろあるからな。今は今以上を望むぜいたくができないだけで。


「あーあ、やっぱり向上心ねーな、俺」

「……その内、我慢比べみたいになってきたりしてな」


焦げた皮と小骨を取りながら雄吾は不敵な笑みを浮かべて、予言みたいにそう言った。









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